それからどうした?…東京讃岐うどん JAZZ KEIRIN

営業時間 11:30〜14:00、18:00〜21:00(徐々に伸ばして行きますのでお電話を) 03-3325-4916


能書き

このコーナーは店主が自分勝手な思いを書くというコーナーです

「JAZZ KEIRIN」
10代にJAZZを知り、20代にSAXと世界旅行に時間を費やし30代に競輪にはまった
JAZZ=音楽と競輪=勝負を通してたくさんの素晴らしい人に出会った
40になってそうした仲間が集まれる空間を持ちたくて10年続けた束子(たわし)の仕事を辞めて
うどん屋をはじめました
店名は迷いなく「JAZZ KEIRIN」
もっといろんな人に出会えるとよいと思います

店主 とがの 


「うどんはスローフードです」



注文したらすぐに食べられるのがファストフード
だとしたらうどんはスローフードなのです(本来のスローフードの意味ではありませんが)
うどんは手間をかけた手作りの食べ物

東京で生まれ育った私は30過ぎてはじめて讃岐のうどんに出会うまでは
うどんとは白くて腰がなくて濃い口醤油の出汁に合わない
長細いもちのような食い物だと思っていました
はじめて本物を食ったときはほんとにショックで「こんなにうまいのか〜」と感激
と、同時に日本中から人が集まる東京で、どうして本物のうどんが流行らないのか不思議でした
讃岐うどんブームの少し前の話です

JAZZ KEIRIN ではお客様が集中する昼のピーク時を除いて
基本的にうどんは受注生産です
少しでも待ち時間を減らすためにお客様が店に入られると同時に麺を釜に入れていますが
それでも茹で上げに12〜15分ほどの時間がかかるので
注文をいただいてからけっこうな待ち時間があります
麺が細い蕎麦やラーメンと違い、腰のしっかりしたうどんの麺は茹で上げるのに時間がかかるのです

今でも時々「茹で上げに15分ほどお時間をいただきます」というと帰ってしまうお客様がいらっしゃいます
残念ですが仕方ありません
だったら常に麺を茹でていればいいじゃないか、ということになりますが
もともと食べ物を捨てることに罪を感じる上、手間ひまかけて打った麺を無駄にするなんてことは
絶対したくない

東京の繁華街の飲食店街では毎日山のような食べ残しや
「見栄え」の為に使われずに捨てられる食材が夜になるとポリバケツに何杯も出されます
その光景は異常以外のなにものでもなく「食」に対する冒涜だと感じています

現代の消費者の食い残しかたは半端ではなく
有名店の料理をいろいろ味わいたいという気持ちから食べきれない量を注文する
チェーン店の居酒屋などで売上げ重視のため宴会メニューがやたらに豪華で
絶対に食べ残す「量」の設定にも疑問を感じます
コースの最後に出る料理がまったく手付かずのままゴミ箱に消える
日本の飲食店ではまったく当たり前の光景になっています

「あそこのうどんは待たされるからな〜」なのですが
努力精進して待っても食べたくなるうどんを作りたい
「食べ物を粗末にするのはよくないことだ」と説教をたれる気は毛頭なく
出汁の一滴まで飲み干したくなるようなうどんを作ることを目標にしようと思います

「海老天と山菜」

ほんとうは出したくなかったのだが当店にも海老天うどんと山菜うどんというメニューがありました
意外な事にわたしには妻も子もいるのです、そこそこ金が必要なのです

店では「避難メニュー」と言われていたこの二つ
なんだかあやしそうな創作うどん、かしわ天など関東の人には馴染みの薄い天ぷら
定番中の定番である「きつね」も「たぬき」もない
一体何を食ったらいいんだ、急用といつわって店を出ようか・・・
そんな方のために海老天と山菜をご用意しておりました

正直に書きますが、海老天はインドネシアまたはタイ産の養殖輸入物、山菜は中国産です
もし国産の天然物を使ったら、海老天は2000円くらい山菜うどんも1800円くらいかな
皆さんが普段召し上がっている1000円くらいの海老天や700円前後の山菜はまちがいなく
100%養殖輸入物です
養殖の魚介類の多くは人口飼料と病気を防ぐための薬漬けの可能性が高く
パック詰めの味付け山菜は防腐剤と化学調味料がたっぷりです
実際、山菜はパックの封を切って冷蔵庫に入れておくと2週間くらいたっても味は変わりません

店では信用できる地鶏の天ぷらや、うちでしか食べられないオリジナルのうどんがあります
しかし初めて来店する方の多くが海老や山菜を注文されます
もしこうしたメニューなしでも経営が成り立つなら明日にでも止めたい
JAZZ KEIRINで海老や山菜を食べるのは、わざわざ中華街まで行って普通のラーメンを食べたり
北海道の寿司の名店でかっぱ巻きを注文するのに等しいと思います

てなわけで、5年目くらいで経営のめどが付いたのでやめちゃいました
当店にご来店の際は、ぜひオリジナルを召し上がってください

PS:2009年10月をもちまして海老天と山菜はやめました
さらに関西風の薄口醤油の出汁には合わない山かけうどんもやめました


「なんとかしますよ」

この仕事を始める前は束子(たわし)の製造輸入販売の会社を経営していました
年収も今の3倍以上、労働時間は半分以下、週休2日

その時は相手がお金を払う側のお客さんで、こちらが年下の売る側であっても
初対面でため口をきかれることはなかったし、「ありがとう」「おせわになります」といった
最低限の礼儀はありました
飲食業に入って驚いたのは、この業種が職業として非常に低く見られていて
初対面で年下のお客さんからも失礼で不遜な態度を取られる事です

準備中の札がかけてあるのに「ねえ、まだ?」とか「もうだめ?」といった言葉使いで
自分より10も15も年下と思われる人から
「よう、金払ってやるから食わせろよ」的な態度の対応をされたことが何度もあります

営業時間を過ぎてから突然店に入ってきて、いきなり
「ねえ、もうだめ?うどんだけでいいからさ」、食べ終わった後も
こちらが店の片づけを終えてお客さんの帰り待ち状態なのに
いつまでも携帯をいじってたり話し込んでいたり
「遅くまですいません、ごちそうさま」そういった言葉もなく帰る
「休診」の札がかかってる医者に突然入っていって「ちょっと診てくんない?」って言うか

今、飲食業界は深刻な後継者不足です
うどん・蕎麦の専門誌でも毎年経営者の悩みの第1位は売上げではなく後継者不足
技術の取得に努力と時間がかかり、きつい・汚い・危険の3K
口に入る商品なので小さなミスも許されないし、不良品は新しいものとお取替えしますでは済まない
1日の拘束時間が15時間なんてのは当たり前の職業で、しかも低収入
B級と言われる庶民的な食べ物屋さんは、時給換算するとたいてい社員よりバイトのほうが高給
これじゃあ若い人が入ってこないのも当たり前

聞くところによると、欧米先進国ではファーストフード以外の飲食店で
ランチでも1食1000円を切る物はないとか
日本の飲食産業の価格設定はあまりにも安すぎる
それでも安くておいしいものを提供しようとがんっばっている業界の人たちがたくさんいるのも事実

さらに昨今の「食べログ」をはじめとした口コミサイトでは
書く側は匿名で言いたい放題、何を書いても何の責任も問われない
書かれる側は頼んでもいないのに勝手な事を独断で書かれそれが売上げに大きく影響する

こんなにも重労働でこんなにも金にならない仕事
どんなに優れたうどんを作っても一杯3000円ってわけにはいかない
私は自己流だが普通は何年も修行してはじめて一人前
もう少しリスペクトされてもいいのではないかと正直思う

だから私は準備中の札がかかったドアを開け
「ねえ、もう終わり?」と聞く客には「終わり」とそっけなく答えることにしている
で、食ベログに「接客の基本がなっていない」などと書かれてしまう

「ごめんなさい、もうだめですかね?」と言ってくだされば
物理的に無理でない限りなんとかしますよ
それが人付き合いというものです
1回2000万の商談でも1杯580円のうどんでも同じです

「ありがたいこと」


店ではバンド時代の仲間や、競輪の仲間や、店を始めてからの仲間や、ネットの仲間とも飲む

毎年年末に小中学校の同窓会を店でやっている
営業はしない
各自が酒やつまみを持ち寄って時間制限もなくワイワイ騒ぐ

いい歳したおじちゃん、おばちゃんが集まって
昔話で笑って、今の苦労で泣いて、全部吐き出して気が済むまで楽しんで帰る

友達は気を使って「年末の稼ぎ時に申し訳ない」と言う
「会費制にすればいいのに」と言ってくれる
でもお金を取ったらサービスをしなきゃいけない
そうなると、よだれが出るほど楽しい空間をひとり素面で眺めなきゃならない

自分の「基地」に友達を集めて作戦会議をする
これ以上の贅沢はない
東京が今よりずっと自由だった時代に、男の子は空き地に基地を作って
仲の良い友達を呼んで作戦会議をしたり
好きな女の子を誘って拾ってきた壊れたテレビを自慢したりしたんだ

どんなに騒いでも暴れても、何時間居すわっても、絶対に店から文句は言われない
だっておれの店なんだから

自分の基地を持つ才覚があっても、集まってくれる友達がいなけりゃどうしようもない
貴重な時間を割いて、基地に遊びに来てくれる友達は
ほんとにありがたい